企業・業界研究

企業研究【メーカー編】~紙・パルプ~王子ホールディングス ・日本製紙 ・ P&Gジャパン

企業研究メーカー編では、紙・パルプ業界の2トップである王子ホールディングスと日本製紙、そして外資系の一般商材メーカーで紙・パルプ業界では世界2位のP&G(売上などのデータはP&Gジャパンを参照しています)を取り上げて見ていきます。

1.メーカーとは

メーカーとは、製造業者のことを指します。モノを作る製造業者の中にも多くの業界があり、例えば鉄鋼、化学、ガラス、セメント、紙・パルプ、家電、コンピュータ、電子部品、自動車、化粧品、食品、医薬品などがあります。

近年は海外進出も進み、業種や企業規模を問わず語学力が必要とされることが増えています。海外に営業拠点や工場を持っていたり、海外からの仕入れや海外への輸出を行っていることも珍しくありません。

工場でモノを製造するイメージが真っ先に浮かびますが、作ったモノを必要とする企業や人へ販売するための営業職や、海外との取引をする部署などもあり、文系の人でも活躍できるポジションがあります。

ただし、数字を扱う場面が多い業界と言えます。

世の中の需要によっては売り上げが大きく上下することが多く、数十年前に稼げると言われた業界が今は落ち込んでいることも珍しくありません。企業によっては世の中の流れを察知し、異業界へ参入したり新しい分野に挑戦することもあります。

2.紙・パルプ業界について

日本国内では需要の下落や低価格競争が長く続いた後、現在では王子ホールディングスと日本製紙が2トップとして君臨しています。

電子化によって印刷用紙の需要が低下しましたが、ネットショッピングの普及により配送用段ボールの需要が増加しています。

中国や東南アジアでおむつの販売が伸びている他、次世代素材として紙の原料であるパルプが注目されています。

紙やパルプは輸入するよりも国内生産の方が安く済むため、海外からの進出が起こりづらいという特徴があり、比較的安定した業界と言えます。外資系の企業では紙・パルプ業界で世界2位の売上を持つPGのベビー用品、女性用品、ファミリーケア用品が日本にも進出しています。

3.企業研究のポイント

企業研究の目的は、その会社の仕事をしっかりと理解して自己PRや面接での受け答えにつなげることにあります。

多くの就活生は会社案内のパンフレットや就活サイトなどを読んで企業研究をしますが、企業全体のイメージを掴むことは難しいと思います。

企業研究で見るべきポイントは以下の通りです。

①会社の歴史

会社の成り立ちや手掛けてきた事業を知りましょう。

②主要な数字と株主構成

売上高や従業員数、株主構成を見て企業を比較しましょう。

③ビジネスモデル

現在どのようなビジネスを展開しているのか知りましょう。

④決算書

どの商品や事業が会社を支えているのか、今後成長が見込める事業が何か知りましょう。

⑤企業理念と経営戦略

企業が大切にしている「想い」を知りましょう。

4.王子ホールディングス ・日本製紙 ・ PG 3社の企業研究

それでは、具体的に企業研究を行っていきます。

企業のホームページや有価証券報告書を主に資料としています。

有価証券報告書は企業のホームページから見ることができます。

全ての語句やデータを知る必要はありません。

ポイントを押さえて見ていきましょう。

Ⅰ各社の歴史比較

王子ホールディングス

1873年、旧財閥の流れを組む渋沢栄一によって、東京府王子村に抄紙(しょうし)会社が設立されたことが始まりです。

1875年に新聞用紙の生産を開始し、1910年には苫小牧工場を建てて洋紙の国内自給体制を整えます。

1893年には商号を「王子製紙」と改称しました。

1933年には富士製紙と樺太工業と合併し、洋紙の国内シェア80%を有します。

1952年に上質紙、1959年に段ボール原紙、1971年に家庭紙、1987年に紙おむつの生産を開始、1973年には海外でパルプの生産を開始しました。

※抄紙・・紙を製造する

戦後に三社分割されて「苫小牧製紙」となり、いくつかの企業と合併をして1996年には三社分割されたうちの1社「本州製紙と合併、2012年に「王子ホールディングス株式会社」に改称しました。

日本製紙

王子製紙の戦後三社分割により、1849年「十條製紙株式会社」として7つの工場を継承して設立されたことが始まりです。

1963年「十條キンバリー」(現在の日本製紙クレシア)を設立します。

1993年に山陽国策パルプと合併し「日本製紙株式会社」と改称しました。

2001年には大昭和製紙と共同の持株会社「日本ユニパックホールディング」(後の日本製紙グループ本社)と「日本紙共販」を設立し、2003年には洋紙と板紙(段ボール)事業の再編により「大昭和製紙」と「日本紙共販」と合併します。

その後も合併を繰り返してきました。

2013年には日本製紙グループ本社と合併しています。

PG(プロクター・アンド・ギャンブル)

1837年、米国オハイオ州シンシナティで、ウィリアム・プロクターとジェームズ・ギャンブルによって、石鹸とろうそくメーカーとして設立されたのが始まりです。

1961年には柔軟剤のダウニーが発売され、日本でも香り柔軟剤のパイオニアとなりました。

1965年にはペーパータオルを発売、歯磨き粉の「クレスト」や紙おむつ「パンパース」をはじめ紙製品ビジネスを拡大していきます。

1980年からはヘルスケア事業、化粧品事業に参入し、グローバルな研究開発ネットワークを構築し、パンテーンやウィスパー、アリエールなどグローバルブランドを生み出してきました。

2005年には「ジレット」をグループに迎え、グルーミング事業(毛の処理)へもビジネスを拡大しました。

PGジャパンは2006年に神戸市に設立されました。

〈比較結果〉

国内の製紙業界は合併を繰り返していて、現在「日本製紙連合会」に所属している会員企業は30社です。

王子ホールディングスと日本製紙はもともと1つの会社でしたが、戦後の財閥解体によって3社に分けられました。

日本製紙は「クリネックス」「スコッティ」でよく知られています。

王子ホールディングスはより高級感のある「ネピア」でおなじみです。

外資系企業のPGは紙・パルプ業界で世界2位の業績を誇ります。

家庭用品を幅広く手掛けていて、紙分野は紙おむつ「パンパース」生理用品「ウィスパー」が知られています。

Ⅱ主要な数字と株主構成
王子HD(20203月期)日本製紙(20203月期)PGジャパン(20196月期)未上場
売上高(百万円)

1,507,607

1,043,912

284,535

営業利益(百万円)

106,125

35,048

6,978

営業利益率

7.0%

3.4%

2.5%

当期純利益(百万円)

58,181

14,212

5,788

純資産額(百万円)

831,657

386,577

77,380

総資産額(百万円)

1,885,280

1,363,469

135,286

自己資本比率

36.7%

27.5%

57.2%

従業員数

36,810

12,595

3,500

グループ会社の数

189

160

不明

☛用語解説

・営業利益

売上高から売上原価と人件費やビルの賃貸料、広告宣伝費などを差し引いた金額。

・当期純利益

税金の金額を差し引いた最終的な儲けの金額。

・準資産額

企業が所有している土地や建物などの「資産」から銀行からの借入金などの「負債」を差し引いた金額。

・自己資産比率

会社が調達した資金の中で返済を必要としない自己資金の割合。比率が高いほど企業経営が安定している。

〈比較結果〉

売上や営業利益率、総資産ともに王子ホールディングスが1位であることが分かります。

PGは日本での売上は2社より少ないですが、自己資本比率が高く安定した国際的企業であることがわかります。

用紙は海外から輸入するよりも国内で生産する方がコストが安いため、常に国内生産が必要な物資です。

王子ホールディングス(国内紙2位、板紙1位)と日本製紙(国内紙1位、板紙3位)は今後も安定した企業であり続けると予想されます。

■株主構成
王子HD日本製紙PGジャパン
日本マスタートラスト信託銀行株式会社(信託口)8.6%いちごトラスト・ピーティーイー・リミテッド(常任代理人 香港上海銀行東京支店)11.64%主要株主は

PG

日本トラスティ・サービス信託銀行株式会社(信託口)5.9%日本マスタートラスト信託銀行株式会社(信託口)7.03%
日本トラスティ・サービス信託銀行株式会社(信託口43.4%日本トラスティ・サービス信託銀行株式会社(信託口)6.98%
株式会社三井住友銀行3.2%株式会社みずほ銀行3.75%
日本生命保険相互会社2.6%日本製紙従業員持株会2.61%
株式会社みずほ銀行2.2%JPモルガン証券株式会社2.26%
王子グループ従業員持株会2.0%日本生命保険相互会社2.13%
日本トラスティ・サービス信託銀行株式会社(信託口51.7%日本トラスティ・サービス信託銀行株式会社(信託口9)2.05%
農林中央金庫1.7%大樹生命保険株式会社1.95%
日本トラスティ・サービス信託銀行株式会社(信託口91.6%日本製紙取引先持株会1.68%
〈比較結果〉

王子ホールディングスと日本製紙の大株主はともに信託銀行や銀行が占めていて、安定した優良企業であることが分かります。

「日本トラスティ・サービス信託銀行」「日本マスタートラスト信託銀行」という聞きなれない名前が多いですが、これらは年金・投資信託などの運用を委託されている銀行です。

実際の株の買い手が分かりませんが、GPIFや日銀が買っている可能性が高く、信頼度の高い会社ということが分かります。

一方PGジャパンはPGの日本支社なので、主要株主は米国のPGです。

Ⅲビジネスモデルを分析しよう

■王子ホールディングス

(20203)

事業区分従業員数構成比
生活産業資材

18,254

49.6%

機能材

5,133

13.9%

資源環境ビジネス

7,450

20.2%

印刷情報メディア

3,303

9

その他

2,670

7.3%

合計

36,810

100

 

王子ホールディングスの事業は、5つに分かれています。

①生活産業資材(段ボール原紙・段ボール加工事業、白板紙・紙器事業、包装用紙・製袋事業、家庭紙事業、紙おむつ事業)

マレーシアやベトナム、カンボジア、インドといった海外にも段ボール工場を持っています。

2020年にはインドネシア初の工場の建設を進めています。

2021年にはニュージーランドの工場が新設・移転されます。

国内では段ボール需要が伸びており、国内最大規模の段ボール工場を船橋地区に建設するなど、需要の変化に対応しています。

家庭紙ではネピアブランドである「鼻セレブ」、紙おむつ事業では国内外の統一ブランド「Genki!(ゲンキ!)」を売り出しています。

また、大人用の紙おむつの商品開発に取り組んでいます。

②機能材(特殊紙事業、感熱紙事業、粘着事業、フィルム事業)

感熱紙・粘着紙は東南アジアでの中心事業で、ブラジルでは南米での感熱紙重要に対応するため設備増強や増設工事を行っています。

さらに中東・アフリカ等の新興国市場での事業拡大を図っています。

国内では特殊紙事業で脱プラスチック化に対応するため紙トレー・容器・ストロー等の提案を進めています。

様々な分野のニーズに応えるための新製品の開発・普及を行っています。

③資源環境ビジネス(パルプ事業、エネルギー事業、植林・木材加工事業)

パルプ事業は国内、ブラジル、ニュージーランド、中国でもビジネスを展開しています。

エネルギー事業ではバイオマス発電設備の稼働・強化を進めています。

④印刷情報メディア(新聞用紙事業、印刷・出版・情報用紙事業)

⑤その他(不動産、プラント・機械類の制作及びエンジニアリング事業、紙・パルプ・合成樹脂の原料・製品他の販売、輸送・倉庫業、ホテル業、マネジメント)

王子不動産㈱や王子物流㈱、㈱ホテルニュー王子などのグループ会社を持っています。

■日本製紙

(2020331日現在) 有価証券報告書「従業員の状況(1)連結会社の状況」より

事業区分従業員数構成比
紙・板紙事業

6,764

53.7%

生活関連事業

2,652

21.1%

エネルギー事業

76

0.6%

木材・建材・土木建設関連事業

1,384

11

その他

1,538

12.2%

全社(共通)

178

1.4%

合計

12,592

100

 

日本製紙の事業は6つに分かれています。

①紙・板紙事業(洋紙、板紙、特殊紙、パルプ等)

洋紙は日本の他、オーストラリアでも製造販売しています。

また欧州でも感熱紙等の製造販売を行っています。

②生活関連事業(家庭紙、雑種紙、紙加工品、段ボール、化成品等)

家庭紙、雑種紙、紙加工品、段ボール、化成品等の製造販売を行っています。

液体用紙容器原紙は北米で製造販売を行っています。

③エネルギー事業

発電設備の運転・管理、日本製紙石巻エネルギーセンター㈱他が電力の卸供給販売を行っています。

④木材・建材・土木建設関連事業

木材、建材の仕入販売、建材の製造販売を行っています。

また、土木建設事業を行っています。

⑤その他

日本製紙物流㈱他が物流事業を、日本製紙総合開発㈱他がレジャーその他の事業を行っています。

PGジャパン

商品ジャンルブランド名
洗剤・ファブリックケア製品アリエール、ボールド、レノア、ジョイ、ファブリーズ等
ヘアケア・スキンケア製品パンテーン、h&s、ヘアレシピ、ハーバルエッセンス、SK-Ⅱ
紙製品パンパース、ウィスパー
その他ジレット、ブラウン等

日本におけるP&G製品の製造、販売、輸出入を行っています。

営業所は札幌・仙台・東京・名古屋・大阪/神戸・福岡にあり、国内の生産拠点は明石(兵庫県)、滋賀、高崎(群馬県)にあります。

従業員数はグループ会社を含め約3,500名です。

〈比較結果〉

王子ホールディングスと日本製紙はどちらも紙・段ボール関係が従業員の約半数を占めています。

新興国を中心に工場を持ち、海外での生産販売も行っています。

王子ホールディングスは紙おむつの生産販売に力を入れていることが分かります。

両社ともエネルギー事業や物流、レジャーといった事業にも取り組んでいます。

P&Gはアメリカにグローバルの本体があり、常に連携しながら業務を進めることが求められます。

製品は広告、プロモーションなどマーケティング手段を用いて周知されており、ブランドや製品の認知度が積極的に高められています。

Ⅲ決算書から会社の現在と未来を知ろう

■王子ホールディングス(20203月期決算短信より)

※売上高と営業利益の上位3位に赤い色付けを行っています。

(単位:億円)

王子ホールディングス売上高構成比営業利益構成比
生活産業資材

6,861

38.8%

409

38.8%

機能材

2,147

12.1%

154

14.6%

資源環境ビジネス

2,856

16.2%

288

27.3%

印刷情報メディア

2,927

16.6%

113

10.7%

その他

2,894

16.3%

90

8.6%

17,683

100.0%

1,054

100.0%

調整額

2,607

7

合計

15,076

1,061

■日本製紙(20203月期決算短信より)

(単位:億円)

日本製紙売上高構成比営業利益構成比
紙・板紙事業

7,064

67.7%

65

18.8%

生活関連事業

2,105

20.2%

126

36.4%

エネルギー事業

330

3.1%

68

19.6%

木材・建材・土木関連事業

616

5.9%

59

17.1%

その他

323

3.1%

28

8.1%

10,439

100.0%

346

100.0%

調整額

4

合計

10,439

350

PGジャパン

未上場のため不明

〈比較結果〉

王子ホールディングスの売上の上位3部門は、生活産業資材、印刷情報メディア、その他となっています。

生活産業資材が売上全体で一番多い38.8%を占めていますが、その他の部門はほぼ同程度の売上が上がっています。

営業利益を見ると、生活産業資材、資源環境ビジネス、機能材の順に高く、資源環境ビジネスで利益が多く出ています。

日本製紙の売上は紙・板紙事業が67.7%と過半数以上を占めていて、売上高第2位の生活関連事業を含めると全体の87.9%に達します。

営業利益を見ると、紙・板紙事業の利益が少なく、生活関連事業、エネルギー事業の利益が多いという結果になっています。

売上の高い紙・板紙事業の営業利益を上げることが今後の課題となります。

次に、両社の海外売上高を比較してみましょう。

■王子ホールディングスと日本製紙の海外売上高(有価証券報告書「地域ごとの情報」より)

(単位:百万円)

王子HD日本アジア北米南米欧州オセアニアその他
売上高

1,057,316

292,698

34,197

26,296

38,908

54,792

3,397

1,507,607

割合

70.1%

19.4%

2.3%

1.8%

2.6%

3.6%

0.2%

100.0%

(単位:百万円)

日本製紙日本オセアニアアジア北米その他合計
売上高

874,756

44,454

72,583

30,622

21,495

1,043,912

割合

83.8%

4.2%

7%

2.9%

2.1%

100.0%

王子ホールディングスは海外比率が日本製紙より高くなっていて、そのことも営業利益率の高さに繋がっています。

特に王子ホールディングスはアジアでの売上が多く占めています。

日本製紙は営業利益を上げる課題とともに、海外での売上比率を上げていくことも課題と言えます。

Ⅳ企業理念と経営戦略

それぞれ確認しましょう。

■王子ホールディングス

・経営理念と経営戦略

https://www.ojiholdings.co.jp/group/policy/philosophy.html

■日本製紙

・企業グループ理念

https://www.nipponpapergroup.com/csr/mission/

・成長戦略

https://www.nipponpapergroup.com/about/strategy/

PG

・企業目的、共有する価値観、行動原則

https://jp.pg.com/policies-and-practices/purpose-values-and-principles/

・経営戦略、他まとめサイト

https://www.goodfind.jp/articles/882

5.まとめ

企業研究メーカー編をご紹介してきました。

上場している企業であれば、企業のホームページから有価証券報告書や決算書を見ると、会社の売上や歴史などを詳しく知ることができます。

志望する企業に深く興味を持ち、どのような企業なのか知っておくことで就職後に働く環境について知ることが出来ますし、選考の対策もスムーズに行えます。

メーカーはグローバル化が進んでいて、大企業であればあるほど勤務地も様々です。

世の中が求めているものが売上に直結する業界ですので、世の中の動きをニュースや業界新聞で掴んでおくことも大事です。

是非じっくりと企業研究や業界研究を行い、実りのある就職活動を行ってください。